【作家】村上春樹、マニュアル車の魅力を語る「どこがいいのか?それは、マニュアル主義者にしか理解できないものです」

僕は、もうかれこれ25年くらい、オープン2シーターにマニュアル・シフトで乗り続けています。オープン2シーターっていうのは、屋根がなくて、座席が2つしかない車のことです。どうしてそんなあまり役に立ちそうにないものに乗り続けているかというと、そういう車を運転していると、ほんの束の間でも、自分は自由だと感じることができるからです。信号待ちをしているときなんか、空をぼんやり見上げていると、雲の流れとか、飛んでいく鳥とか、そういうものがけっこう心に沁みるんです。ときどき信号が変わったのに気がつかず、後ろからクラクションを鳴らされますけど。

でもね、オープンカーって、女の人ってまず一緒に乗ってくれません。恥ずかしいとか、日焼けするとか、髪が乱れるとか、だいたい嫌がりますね。だから、ほぼいつも1人で孤独に運転しています。エリック・バードン&ジ・アニマルズの「スカイ・パイロット」(註*第1回「村上RADIO」オンエア曲)とか聴きながら。

マニュアル・シフトも絶滅危惧種になりつつありますが、僕はオートマチック車って、どうしても好きになれないです。マニュアルのどこがいいのか? それはもちろん、自分でギアを選べることです。こんな不自由な世の中なんだもの、車のギアくらい好きに選びたいですよね。そう思いません? その結果、ギアの選択を間違えたり、うまくシフト移動できなくてエンストしたりすることもたまにあります。でもそういうのが人生じゃないですか。山道で無意味なシフトダウンをする歓びは、マニュアル主義者にしか理解できないものです。全国のオープン2シーターに乗っているマニュアル主義者の方、もしいらっしゃったらメールをください。孤独を慰め合いましょう。