探検


理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」

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1名無しで叶える物語(新疆ウイグル自治区)
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2018/01/22(月) 23:07:51.44ID:bJX80SgM
聖良「……」カリカリ

聖良「……」カリカリ カリカリ

聖良「……」


カラン


聖良「……ふう。今日はこれくらいにしておきましょうか」

聖良「終わりがないのが勉強とはいえ……これだけ量をこなすのは流石に疲れますね」

聖良「まあ、今までスクールアイドルに専念していたツケと思えば」

聖良「たったこれだけで済んでいるのは有難いことでしょうか」
2018/01/22(月) 23:09:17.96ID:bJX80SgM
聖良(……最後の大会。私たちは決勝へ進むことすら出来なかった)

聖良(それが悔しくないと言えば嘘にはなりますけど……でも)

聖良(Aquorsの皆さんに――そして、理亞に後押しされて吹っ切れたというか)

聖良(それで一種の区切りが着いたのは確かです、ね)

聖良(特に理亞が、皆さんの助けがあったとはいえあそこまで自立、成長していたのは)

聖良(……喜ばしいことではありますけれど。同時に寂しくもあり、でしょうか)

聖良(ふふ、我ながららしくないことを考えるものですね)
2018/01/22(月) 23:10:43.62ID:AAQifLcN
オカエリナサイ
2018/01/22(月) 23:10:56.82ID:bJX80SgM
パタパタ... ガチャ

理亞「姉様」

聖良「? 理亞、まだ起きていたの」

聖良「スクールアイドルは身体が資本なんですから、夜更かしはよくないですよ」

理亞「ごめん、姉様。でも、何だか今日は寝付けなくて」

聖良「……ふぅ、仕方ないですね。では、理亞さえ良ければ少し話でもしませんか」

理亞「本当!? ……あ、でも姉様の、受験勉強の邪魔に」

聖良「今、区切りが着いた所ですから。気にしなくても大丈夫」

理亞「そう……良かった」パァァ

聖良(……この笑顔を見ていると、さっきの自問が馬鹿らしくなってきますね)
2018/01/22(月) 23:12:10.92ID:bJX80SgM
理亞「ねえ、姉様」

聖良「どうしました、理亞」

理亞「私、また姉様の怪談話が聞きたい」

聖良「怪談話……ですか」

理亞「うん。昔寝る前に色々と話してくれた、ああいう話が良い」

聖良「……でもあの時は、理亞が震えあがってしまって眠るどころじゃなかった気が」

理亞「……それは忘れて」
2018/01/22(月) 23:13:28.77ID:bJX80SgM
聖良「しかし……ふむ、怪談話」

理亞「ダメ? 姉さま」

聖良「そういうわけではありませんが……あまり手持ちの話もありませんよ?」

聖良「あの頃から話のストックががそれほど増えているわけでもないですし」

聖良「まあ、気分転換程度にはなるでしょうけど……それでも良い、理亞?」

理亞「勿論! だって姉様の怪談話、好きだもの」

聖良「……そう言われてしまっては敵いませんね」

聖良「では、始めましょうか。久しぶりの怪談話を」
2018/01/22(月) 23:14:56.65ID:bJX80SgM
 第一夜 『小さいおじさん』

……さて、最初は軽い話から行きましょうか。私の方も、昔の感じを取り戻したいですし。

理亞は『小さいおじさん』って知っている?

そう。よくテレビで芸能人の人たちが見た、っていっているのを聞きますよね。

大きさはまちまちですが、大体手のひらに乗るくらいで。

ある時はこちらに声をかけてきたり、またある時は犬や猫に追いかけられていたり。

目撃談も全国各地で、そうそう、海外でも見たという噂があるみたいですよ。

一説によると、ホビットや妖精に由来するものじゃあないか……なんて噂があるみたいですが。

まあ、真相は依然、闇の中でしょうね。
2018/01/22(月) 23:16:45.25ID:bJX80SgM
どうして今この話をしたか……ですか?

それはですね、ここ函館でも『小さなおじさん』の目撃情報があるんです。

とは言っても、世間一般の『小さなおじさん』とは大分存在がかけ離れているようでして。

小学生くらいの大きさで、現れてもこちらに何をするでもない。

ただ通りを一人で歩いているだけ……そんな「幽霊」なんだそうです。

……不思議ですよね? 

それくらいの身長の人なら普通に生きていてもおかしくはない。

私もそこが気になって。「出る」と噂の場所を探して、試しに行ってみたんです。
2018/01/22(月) 23:17:53.63ID:bJX80SgM
言うでしょう? 百聞は一見に如かず、って。

何事も、自分の目で確認できることは確認しておきたいですからね。

目撃談を集めるのは、そう難しいことではありませんでした。

同級生や、近隣の学校のスクールアイドルの皆さんに何人か見た人がいたもので。

そういった情報から……どうやら出るのは、函館駅の近くらしい、と。

ええ。意外と人の往来の多い所に出るものだと思いました。

それもあって、半信半疑でその場所へと向かってみたんです。
2018/01/22(月) 23:20:10.68ID:bJX80SgM
……会えたかどうか、ですか? 

はい。それはもう呆気なく。

あまりに簡単に遭遇できたものですから、少し気落ちしたくらいです。

やはり噂は噂でしかなくて、普通の人がその話の種として弄ばれただけなんだと。

そう思い、早々に踵を返そうとしたのですが……ふと、あることが気になったんです。

              『ズルリ。 ゴギッ。』

遠くからこちらに近付いてくる彼に合わせて、音が鳴っていることに。
2018/01/22(月) 23:22:59.56ID:bJX80SgM
それが彼の足音だと気付くのには、そう時間はかかりませんでした。

        『ズルリ、ゴキキ。』

彼の動きに合わせるかのように、音は聞こえてきましたからね。

いえ、しかし。何かを引き摺っているような、あるいは杖でもついているような。

そんな音が、果たして普通に歩いていて起こるでしょうか。

 『ズルリ、コキッ。』

そんな疑問もまた、彼とすれ違う時には氷解したのです。
2018/01/22(月) 23:24:18.82ID:bJX80SgM
……彼の足元。

そこにあるべき足がなかった。

いえ、これだと少々語弊がありますね。

正確に言うなら、彼の膝から下が無かったのです。

背が小さく見えていたのも、きっとそのせいでしょう。

……どうして、そんな状態になっているのか。それは私にも分かりません。

事故にしろ事件にしろ、「足を喪った男性が死亡」……なんて話はとんと聞きませんし。

手掛かりがない以上、私には断定しようがありませんから。
2018/01/22(月) 23:25:39.44ID:bJX80SgM
……あるいは。

もしかしたら、彼は……てけてけが変じた姿なのかもしれませんね。

ほら、だって話の大枠は似ているじゃないですか?

『人の多いところに出る』『足を欠損した』『北海道特有の怪異』

これだけ類似点があるのですから、話が習合してしまったとしてもおかしくはありません。

……元は彼は、ただの塵芥に過ぎない、そんな霊の一体だった。

そこに、てけてけの話と要素が足された結果。

今も彼は、砕けた膝を引き摺り続けているのでしょう。

……なまじ強い『てけてけ』の知名度に引っ張られて、消えることすら許されずに。
2018/01/22(月) 23:26:29.52ID:bJX80SgM
……これでこの話は終わり、です。

どうですか? 昔の調子は取り戻せていたでしょうか?


 

 第一夜 『小さいおじさん』 終
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2018/01/22(月) 23:30:22.06ID:bJX80SgM
 第二話 『足跡』

さて、今日の話は……そうですね、怪談、怪談と。

それでは、こんな話にしましょう。

函館に住んでいる以上、雪というのはどうしても生活に関わってきます。

雪かきや雪下ろしを怠れば、住宅や屋根は潰される。

吹雪くことは勿論ありますし、副次的な路面の凍結だって洒落にならない。

しかし、雪が危険で、厄介なだけの存在かと言われれば、必ずしもそうではありません。

雪像やかまくら、それに幻想的な雪の結晶。色々な形で、見る人を楽しませてくれます。

……もちろん、理亞は言うまでもなく、分かっていますよね。
2018/01/22(月) 23:31:20.71ID:bJX80SgM
かくいう私も、一面に雪の積もった光景を見ると少し心が弾みます。

誰も足を踏み入れていない、ひたすらに真っ白な大地。

そこを踏みしめ、自分の足跡だけが残っていく……その瞬間が好きなんです。

……おっと、話が逸れましたか。

今から話すのは、そんな風に新雪の積もった、ある冬の朝の話です。
2018/01/22(月) 23:33:55.27ID:bJX80SgM
もう三、四年前になりますか。理亞が風邪をひいた日に、雪が積もったことがあったでしょう。

その次の日、熱も引かないのにランニングに理亞がついて来ようとして。

そうそう、あの時は不思議とぐずって最後は半泣きにまで……ふふ、ごめんなさい。

ともかく、そうして一人でランニングをすることになった日がありました。

冷たく澄んだ空気に、朝日に反射してきらきらと輝く氷の粒。

そして何より、早朝まで降っていたのか轍すらない雪の道。

普段通り……いえ、普段以上に張り切っていたのを覚えています。
2018/01/22(月) 23:35:55.69ID:bJX80SgM
コンクリートに比べれば些か走り辛いけれど、雪の上は慣れたものですし。

先程も言いましたが、新雪に足を踏み入れるのは気持ちが良い。

そうしてしばらく走っていましたが……丁度折り返して家に戻ろうと思った頃でしょうか。

道路の上に一人分の足跡があることに目が行きました。

どうも気が付きませんでしたが、私より先に雪の上を歩いていた子供がいたようで。

……ええ、足跡がとても小さなものでしたから。

それで、小さい子が朝早くから散歩でもしていたのだと思ったんですよ。
2018/01/22(月) 23:38:51.32ID:bJX80SgM
小さな足跡は点々と、私が来たのとは反対に伸びていて。

つい何とはなしに、その足跡を追いかけてみることにしたんです。

物珍しさと言うのも、もしかしたらあったかもしれません。

そうして道なりに……200mほど歩いたくらいでしょうか。

真正面に塀がくる形で、丁字路に差し掛かったんですが……

その丁字路の分かれ道の、両方。左右どちらの道にも足跡は続いていました。

まるで鏡に写したかと見紛うほどに、綺麗に二手に分かれていたんです。
2018/01/22(月) 23:40:41.93ID:bJX80SgM
左右一方なら、当たり前。正面の塀に伸びているなら、まだ分からなくもない。

多少身軽であったなら、塀を乗り越えられる可能性も否定できませんし。

ですが、左右両方の道に進む足跡があるのはどう見てもおかしい。

……そういうイタズラ? それは私も考えました。

いつか読んだ本の受け売りですが……バックトラック、と言うんでしたっけ。

進んで来た足跡をそのまま同じように踏んで戻る、という技能があるらしいです。

だからこれも……子供がするとは考えにくいですが。そうやって作ったのではないか、と。
2018/01/22(月) 23:42:17.51ID:bJX80SgM
試しに、左側の足跡を追ってみると……その先もまた丁字路だったんですが。

そこでも足跡は二つに分かれていました。さっきと同じ様相で。

その先も、またその先も。道の数だけ、足跡が分かれて増えていく。

最初の丁字路に戻って、右の足跡に切り替えても……こちらも結果は同じ。

次の三叉路も、その先に広がる十字路にも。逆にある分かれ道にも。

……もはや子供の仕業では説明できない。範疇を超えている。

早朝、雪が積もってから時間はそう経っていないというのに。

たったそれだけの時間で、これだけの足跡をズレなく用意するなど出来るはずがないのです。
2018/01/22(月) 23:45:15.67ID:bJX80SgM
奇妙、いえ、恐怖。とにかくその場にもういたくなかった。

恥ずかしいですが、脇目も振らずに家へと帰りましたよ。

……ええ。あの時息がいつもより上がっていたのは、そういうわけ。

あれは……結局、なんだったんでしょうね。

バックトラックと同じように、何かから逃げるための陽動として用いていたのなら。

いえ、それにしたって用意周到すぎます。

それならば……むしろ、逆だったのではないでしょうか。

何かから逃げるのではなく、何かを捕らえる。

好奇の目で近付いた獲物を、誘うための罠だとしたら――
2018/01/22(月) 23:46:45.22ID:bJX80SgM
……いえ、この話はここで終わりにしておきましょう。

あれ以来――また理亞と二人で朝練をする様になってからは、一度も遭遇していませんし。

変に邪推するより……謎は謎のままであった方が。

やっぱり綺麗だと思いませんか?


 

 第二話 『足跡』 終
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2018/01/22(月) 23:53:18.44ID:bJX80SgM
 第三夜 『シグマ』

小さいころ、どこかに行くことを禁止されたことはありますよね?

……まあ、無い人の方が珍しいと思いますけど。

大抵そういった禁則地にされる場所は、近所の沼や淵、山が中心でしょう。

もしくは廃墟など……要は、人の手が入り辛い所が多いですね。

そして当然、立ち入りを禁じている以上。そういう所には様々な危険が潜んでいる。

だから事前に注意を施して、子供が近づかないようにしているんでしょう。建前上は。
2018/01/22(月) 23:55:35.38ID:bJX80SgM
ええ、そうです。

禁則地になる場所には、危険以外の理由が付き纏っていることも多いんです。

それも、往々にして私たちに見せたくないものが混じっていることが。

私の友人……そうですね、Cとしましょうか。

Cもそのような禁則地を知っていた一人と言えるでしょう。

彼女はここより北にある、小さな村の出身だったのですが……

事のあるごとに、祖母からこう言い付けられて育ったそうです。

『北の山はね、深くまで入っちゃだめだ。シグマに食われちまうから』
2018/01/22(月) 23:56:57.87ID:bJX80SgM
ここでいうシグマ……とは、Cは祖母から教わることはなかった様ですが。

イントネーションから、どうやらヒグマのことらしいと思っていたようです。

ヒグマという字は、漢字にすると「羆」と書きますよね?

ですから「四」と「熊」が組み合わさって、「シグマ」……それがきっと古い読み方だと。

それで祖母はその読み方を使っているのだと、Cは理解していたみたいです。

……ヒグマが出るだけなら、ただの注意で終わるんですが、ね。
2018/01/22(月) 23:58:44.92ID:bJX80SgM
Cが中学に入った頃。彼女の友人たちがその北山の奥を探検しようと言い出しました。

『北山にあるヨドコボシの下にはお宝が埋まってるらしい』

ヨドコボシ。これも村特有の呼び方らしいのですが……彼女もこの時初めて聞いた名前だそうで。

言いだしっぺの友人が言うには、北山にしか生えない茸の一種だと。

そして、どうやらその根元に宝があるという噂を聞き付けたようです。

噂はいつの時代も話の種。まして反抗期なら、言い付けに逆らいたくもなるもの。

『うちも親がそう話をしているのを聞いた』

『大人たちも時々北の山に深入りしているし、私らも行ってみないか』

……そんな友人たちの誘いに、Cが乗るのも仕方なかったのかもしれません。
2018/01/23(火) 00:00:13.22ID:Wh/8ZQSG
探検当日。北の山の中を、Cと友人はずんずんと歩いて行きました。

奥へ奥へ、周囲の気配を警戒しつつ、ヨドコボシが無いかを探して。

そしてすっかり頂上近くまで着いた所で……友人の一人が声を上げました。

『ヨドコボシだ!』

彼女の指の先にあったのは……片手程もある大きな、毒々しい色の茸。

その群れが、斜面の下にぽつり、ぽつりと広がっていたのです。
2018/01/23(火) 00:02:13.21ID:Wh/8ZQSG
……はしゃぐ友人たちを尻目に、Cはその茸の異様さに身がすくんでいました。

だからこそ、斜面を下って地面に目を凝らす友人たちに一足遅れ。

そして気付いたのでしょう。

斜面の上の地面……森の中、一本の木の、その根っこのあたり。

そこに、同じ茸が生えているのにも。  

ええ、そして。食べてはいけないと一目でわかるその茸。

その傘に――齧られた跡があったのにも。
2018/01/23(火) 00:08:07.70ID:Wh/8ZQSG
あまりにも、遅すぎました。

Cを心配して友人たちが戻って来たその瞬間に。

ふらりと……森の奥から現れた、異形のヒグマ。

異様なほど痩せこけ、目は虚ろにくぼんでいて。

絶え間なく口から漏れ出しているのは、ふうふうという荒い息。

不気味なほど逆立っている毛並みは、ところどころがまだらに赤み。

だらんと手を下げ、二足で立ち上がっているのが、生理的嫌悪に拍車をかけていて……
2018/01/23(火) 00:08:50.99ID:Wh/8ZQSG
『ああああああああああああああ!!』

悲鳴を上げて逃げ出したCと友人。

それをヒグマ……いえ、シグマが追ったのです。

……はい。シグマという名前は、実際なんということはなく。

死の臭いを色濃く漂わせるから、「死熊」。

ただ、それだけのことだったと。
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