システム工学の観点から見ると、Solanaのように単一チェーンへ全世界のあらゆるステート(状態)を集約するアーキテクチャは、高性能である一方で、金融機関が最優先する設計思想とは必ずしも一致しない。

金融機関が重視するのは、単純な処理速度ではなく、障害分離(Fault Isolation)、リスク分離、ガバナンス、保守性、そして24時間365日安定して稼働できる信頼性である。

もし個人決済、銀行間決済、株式取引、国債決済、RWA、ステーブルコイン、DeFi、ゲーム、AIエージェントなど、性質も重要度も異なるすべてのステートが1つのチェーン上で共有されていた場合、一部のアプリケーションで発生した異常な負荷やバグ、スパム攻撃、アップグレード時の問題が、ネットワーク全体へ波及するリスクを完全に切り離すことは難しい。システム工学では、このような構造は共通障害点を大きくする方向の設計と考えられる。

一方、モジュラー構造やL2を活用した水平分散型のアーキテクチャでは、銀行決済、RWA、AIエージェント、ゲームなどをそれぞれ独立した実行環境で動作させ、必要なときだけ共通の決済層やセキュリティ層で接続することができる。そのため、一部で障害が発生しても影響範囲を局所化しやすく、個別にメンテナンスやアップグレードを実施できるだけでなく、規制要件や機密性に応じた環境分離も容易になる。

これは現在の大規模ITシステムやクラウド基盤の進化とも一致している。巨大な単一アプリケーションや単一データベースへ集約するのではなく、マイクロサービス、データベースのシャーディング、Kubernetesによる分散配置、可用性ゾーンの分離など、「障害を小さく閉じ込める」設計が標準になっている。負荷が増え続ける環境では、1台の巨大なサーバーへ無限に集約する垂直スケーリングよりも、多数のシステムへ分散する水平スケーリングの方が拡張性と可用性に優れるからである。

AIエージェント経済やRWA、ステーブルコインの普及によって、今後ブロックチェーン上で管理されるステートは爆発的に増加すると考えられる。その状況で、すべての状態を単一チェーンへ集約するよりも、用途ごとに分散しながら共通の信頼基盤で接続する方が、性能、保守性、障害耐性、規制対応のすべてにおいて合理性が高い。

もちろん、単一チェーンにはグローバルな状態を共有しやすく、高いコンポーザビリティを実現できるという利点があるため、その設計自体を否定することはできない。しかし、24時間365日の安定稼働が求められ、一瞬の停止や障害が社会全体へ影響を及ぼす金融インフラにおいては、「全世界のあらゆるステートを1本のチェーンに集約する」という発想よりも、「リスクを分散しながら共通の信頼基盤を共有する」というモジュラー型・水平分散型のアーキテクチャの方が、システム工学的にもエンタープライズ設計の観点からも自然な選択肢と言える。