Ethereumが直面している最大のスケーリング課題は、計算処理(Execution)やデータ量(Data)ではなく、ブロックチェーン上に恒久的に蓄積され続ける「state(状態)」にあります。

ここでいうstateとは、単なる取引履歴ではなく、各アカウントの残高やスマートコントラクトの内部変数、DeFiポジションの状態、権利関係や契約の進行状況など、「今この瞬間のEthereumがどんな状態にあるか」を定義するすべての情報を指します。言い換えれば、stateはブロックチェーンの「現在形」であり、世界共通の帳簿として常に参照され続ける情報そのものです。

ExecutionについてはロールアップやZK技術によってオフチェーン化・並列化の道筋がすでに見えており、DataについてもBlobやDAS(Data Availability Sampling)の導入によって拡張余地が大きく広がっています。一方でstateだけは、「すべてのノードが、すべてのstateを恒久的に保持・検証する」という前提が長年維持されてきたため、利用が拡大するとノード運用コストが上昇し、最終的には分散性と持続性が損なわれるという構造的限界に直面していました。

この課題に対してVitalik氏が先日提案したのは、stateを単一のものとして扱うのではなく、用途・寿命・重要度に応じて複数の形に分けるという設計思想です。

すべてのstateが永続的に保持される必要はありません。短期間で役割を終える一時的なstate、高頻度で更新されるが最終結果だけが重要なstate、そして法的・金融的に意味を持ち、厳密な最終性が求められる基幹的なstateを分離することで、Ethereum全体のstate増加を効率的に管理できます。これにより、ノード負荷を抑えつつ、利用規模の拡大にも柔軟に対応可能になります。

このstate改革は単なる性能改善ではなく、Ethereumが長期にわたり世界規模の経済インフラとして存続できるかを左右する極めて本質的な構造改革です。AIエージェント経済、RWA(現実資産のトークン化)、国際金融といった分野では、24時間稼働する大量の取引と状態管理が前提ですが、state分離を導入することで、ノードの負荷や中央化リスクを抑えつつ、Ethereumは成長と安定性を両立できます。

SWIFTとの連携も、こうした改革の恩恵を受けます。SWIFTがオンチェーンと接続する際に必要なのは、複雑で高頻度のstateではなく、清算や証跡、最終性といった単純で定型化されたstateです。これらは制限付きstateや専用stateと非常に相性が良く、L1に無理にすべてを書き込む必要はありません。日常的な取引はオフチェーンやL2で処理され、Ethereum L1は最終確認と清算に集中できるため、安全性と効率性の両立が可能です。

TPSという観点では、Ethereum L1単体は今後も数百から数千TPS程度に抑えられる設計ですが、これは制限ではなくL1が安全性と最終性に集中できる強みです。さらに、L2やAggLayer、EILと組み合わせれば、実質的な処理能力は大幅に拡張でき、数十万〜100万TPS級のトランザクション処理も十分に可能です。これにより、SWIFTや大規模AIエージェント経済のような超大規模ユースケースでも、Ethereumは無理なく対応できます。

SWIFT級のトラフィックはこの規模からすれば極めて軽量であり、真の課題はTPSではなく、stateを長期にわたり健全に管理できるかどうかに集約されます。技術的な障壁はほぼ解決済みであり、現在残っている課題は主に規制や責任分界、実務上の合意形成など制度面です。そのため、SWIFTとの統合は段階的に進み、まず検証や証跡用途で利用され、限定的な清算や特定市場での実務運用を経て、最終的には金融インフラの一部として自然に組み込まれていくと考えられます。

今は「SWIFTが来るかどうかを賭ける段階」ではなく、「SWIFTが来た世界でEthereumが中核インフラとして機能しているか」を静かに織り込み始める段階です。市場はまだ十分に理解していませんが、技術と構造面では受け入れ態勢が整いつつあります。

総じて、state改革、L2スケーリング、SWIFT連携はすべて同じ地平線上にあり、Ethereumは単なる暗号資産ではなく、世界規模の清算・契約・状態管理インフラとして成熟する道を着実に歩んでいるのです。今まさに、その分岐点に立っていると言えます。